同行三人

後期高齢者のお遍路です

7.12番焼山寺

 4月9日、歩き始めてはや5日目である。旅館吉野を6:50頃出発。次の宿は焼山寺から4kmほど下った「すだち庵」である。実は焼山寺の宿坊に電話したのだが宿坊は閉鎖されていた。焼山寺まで行くのが精一杯だろうと考えていたので、さらに4kmの下りは今から気が重い。すだち庵のご主人が荷物の配送サービスをしてくれるというので、大半の荷物を吉野に預けることができた。私のリュックには弁当と昨日お接待で頂いたお茶が2本、地図・スマホ・納経帳などが入っている。妻は軽い小さなリュックを貸していただいて、自分の必要品を入れている。荷が軽くて随分助かった。

 7:00頃藤井寺を通過、いきなり急な登りになる。ミニ四国88箇所を見ながらゆっくりと登る。

 登っていると「頑張ってください」などいろんな小看板がある。まだ歩きはじめで「頑張る」ほどではない、などと思っていたら「遍路ころがし1/6」の看板があって、登りがさらに急になった。

 遍路ころがしが終わってもさらに登りが続き、何度も休みながら登る。何人かに追い越された。ず〜〜っと登りが永遠に続く。やっと少し楽になったかと思ったら、9:20にやっと長戸庵到着、ここでまだ4分の1である。先が思いやられる。このあたりで一組の男女に追い越された。初老の男性と若い女性である。様子から男性はガイドさんなのかなと思った。この2人についてはまた後で出会うことになる。

 長門庵から比較的ゆったりした道が続き、さらに少し登ると「風景発心の地」があり、吉野川方面の眺望が良い。昨日渡ってきた潜水橋「川島橋」がよく見えた。

 ここからはしばらくゆったりした道が続き、馬の背を通り過ぎると、いきなり「遍路ころがし2/6」が現れた。これを登りきると、あとはなだらかな道が続くが、「中間点」の柳水庵にはなかなか着かない。途中、若い女性に追い越される。なんだかすごいスピードで歩いている。この人とも後に出会うことになるので、仮にAさんとしておこう。

 最後に急な下りを降りる、これが「遍路ころがし3/6」である。降りたところに柳水庵があった。11:00頃到着である。ここにはおいしい水ときれいなトイレがあった。

 長戸庵も柳水庵も番外霊場である。長戸庵には納経ができないが、柳水庵には納経できる。しかし、「納経は焼山寺で受け付けます」の張り紙がされていた。お遍路さんが多いときには人がいるのだろうか? ここまででへたばってしまった人のためにタクシー会社の看板があったが、我々はもう少し頑張ることにした。

 柳水庵から少し下ると満開の桜に囲まれた立派な休憩所があった。ここも「一晩だけ」という条件で宿泊可とある。さっき追い越されたAさんも休んでいた。ベンチに座って昼食にする。吉野で用意してくれたおにぎりは塩味が絶妙で美味しい。昨日藤井寺近くの休憩所でいただいたバナナも食べた。ここまで舗装された道が来ていて、車が通過していった。少しだけ舗装道路を歩いて、荒れた未舗装の林道に入る。かなり急な上りである。これをかなり歩いたところで山道に入る。またまた急登になって、「遍路ころがし4/6」である。

 これを必死になって登ると石の立派な階段が現れて、

 浄蓮庵に到着。12:50。ここが今日の最高地点である。あとは下るばかり・・・ではなかった。少し歩いたら2人の男性が休憩していた。我々を追い越していった人と、逆方向から来た人のようだった。彼らによると「ここから300m下って、また同じだけ登り返すと焼山寺に着く」という。「だいたい同じ標高だから」と。これで妻は最後まで歩くのを諦めたという。

 ここからの急な、長い下りが「遍路ころがし5/6」である。下りが苦手な私はここですっかり消耗してしまったが、あと2km、最後のへんろころがしを頑張るつもりでいた。しかし妻はもう歩けないという。左右内の集落に出たら、目の前にタクシー会社の看板があった。その電話番号をメモして、もう少しだけ頑張って降りると、車道に出て、歩道の入り口まで行った。そこにもタクシー会社の看板がある。地元のおじさんが「あと1時間だよ」と声をかけてくれたが、妻はこれからまた登るのは絶対に出来ないという。仕方なくここでタクシーを呼ぶことにした。

 タクシーは焼山寺の登り口まで入ってくれた。境内は立派な杉が見事である。ここで柳水庵の納経をして、御札も頂いた。

 周辺には桜が満開だった。下にタクシーが待っていてくれている。

 さらにタクシーで今日の宿「すだち庵」へ。車で運んでいただいた荷物を受け取り、部屋で整理。洗濯機・乾燥機があるので使おうとしたら、アルバイトの元気なお姉さんが「カゴに入れておいてくれたらやっておきます」というので、おまかせしておく。「温泉に行きますか?」というので、喜んでお願いする。タオルなども用意してくれて、かなりの距離がある神山町の温泉まで車で送迎してくれた。荷物の搬送といい、温泉までの送迎といい、歩き遍路にはうれしいサービスである。温泉の帰りにコンビニに寄って買い物もできた。

 宿の周りも桜が満開。神山町への途中の桜はもう散り始めていた。もう少し前まで、花見客も多かったらしい。

 食事は「夕食はカレー、朝はパン」と事前に聞いていたが、その通りだった。カレーはお代りのできる様子がなかったが、翌朝の朝食も含めて、若い人にはとても足りないのではないかと思う。部屋にはポットもなく、お茶も飲めない。日中汗をたっぷり書いているので喉が渇く。昨日のお接待で頂いたペットボトルのお茶に助けられた。

 同宿の男性の話を聞いた。岡山から来た65歳の方である。一人の女性と2晩同宿になり、焼山寺へも一緒に歩いてきた。その女性の荷物が重くてへばってしまったので、登りだけ持ってやったという。昨日長戸庵あたりで我々を追い越していったあの2人である。

 旅館吉野から留守電が入っていた。こっちからかけると、部屋に充電器の忘れ物があった、男性数人のグループだという。われわれではありません!

 長い一日が終わった。焼山寺道にはまたいつか再挑戦したいと思う。

 最後の写真は、焼山寺道にたくさんある石像の一つである。古いものや比較的新しいものがあり、右側に「山まで(?)56丁」などとある。どうやら、いわゆる丁石といわれるものらしい。1丁は約109mのはずだが、この数字はあまり当てにならない。そもそも数字の並び方もかなり混乱していて、例えば87の次に89が現れたりする。それにしても、歩いていて思ったのは、焼山寺まであと何kmといった表示がほしかった。数字が確実に減っていくのが励みになるからである。